文学フリマ新刊告知その1
12/6の「第9回文学フリマ」合わせの新刊情報その1です。
ちょっとまだ編集中なのですが、発行できるよう頑張ります。
スペース:R-3 close/cross
少女漫画を語る本・増刊「GCAOB! petit」
目次
・世界>カメラ<オブスキュラ(sayuk)
・お振るいあそばせ、という古めかしいことば(高柳紫呉/紫呉屋総本舗)
・品川経由のラブストーリィ(sayuk)
・売野機子作品(もしかしたら)全レビュー(sayuk)
・そろそろ僕らユカちゃんの話をしようよ(sayuk+井上)
詳細
・世界>カメラ<オブスキュラ(sayuk)
id:sayuk:20091122:p1 と同じ。楠本まき「カメラ・オブスキュラ」(『T.V.eye』所収)について。
- 作者: 楠本まき
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1993/09
- メディア: コミック
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・お振るいあそばせ、という古めかしいことば(高柳紫呉)
鈴木有布子『お振るいあそばせ!』シリーズを扱った小文。『青い花』を代表とする女子高ものについて。
空ちゃんの恋 ─ お振るいあそばせ! (2) (ウィングス・コミックス)
- 作者: 鈴木有布子
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2009/10/24
- メディア: コミック
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・品川経由のラブストーリィ(sayuk)
杉井光「ステレオフォニックの恋」(『さよならピアノソナタ encole pieces』所収)、天乃忍『片恋トライアングル』に触れつつ、またもや三角関係話。
さよならピアノソナタ―encore pieces (電撃文庫)
- 作者: 杉井光,植田亮
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/10/10
- メディア: 文庫
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- 作者: 天乃忍
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2009/01/05
- メディア: コミック
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・売野機子作品(もしかしたら)全レビュー(sayuk)
白泉社から創刊されたムック「楽園 Le Paradis」でデビューした作家、売野機子。今年最注目の新人の作品をレビューします。
・そろそろ僕らユカちゃんの話をしようよ(sayuk+井上)
「ダ・ヴィンチ」誌でついに特集も組まれた東村アキコの初期作品について語ろうという企画。本誌1号ともリンクしています。
- 作者: 東村アキコ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/08/07
- メディア: コミック
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※今回の本は、文学フリマのみで頒布する予定です。すみません売れ行きしだいではわからないです。ぴったり完売するんじゃないかなーと思ってはいるのですが。
※バックナンバーの3号、4号も持ってゆきます。当日の詳細は水曜日ごろにまたアップします。
世界>カメラ<オブスキュラ
カメラの画素数が上がるたびに、携帯の機種変更をするような人だった。フィルムでもコンデジでもなく、携帯で撮るということは、ちょうど文庫にはさむしおりや付箋のようなもの、そう彼女は言っていた。週に一度くらいの更新を五年も続けている、彼女のブログにはそれらの写真は決して載らない。大好きな本の一節を引用するのなら分かるけど、しおりや付箋そのものをアップするのは違うでしょ、そんなことも言っていた。
九月の終わり、一年振りくらいの、まだ暑い日のデートは急きょ秋葉原へと変更された。何台/何代目かに選ばれた携帯は当然のようにアイフォーンで、手続きが終わり引き渡された端末に、彼女は店を出るやいなやアプリケーションをダウンロードしようとする。その日の街はそんな風に、混雑する路上でじっと端末を目の高さに掲げる人びとが多いように思えて、わたしはそっと彼女を、もう少し往来の少ない路へと誘導する。その裏道には、数十分後彼女によってひとつめの付箋/タグが付けられた。「わたしたちのセカイカメラがはじまった場所」。
「カメラ・オブスキュラ」は、楠本まきの短編集『T.V.eye』の一編として描かれた。路上でうずくまる少年に、「あたしと一緒に暮らさない?」と女が声を掛ける。家具もほとんどないからっぽの彼の部屋に女が持ち込んだのは、大量の現金とピストル。その日から二人の奇妙な生活が始まる……。何にも執着できない無為な時間を過ごしながら、ただ大量殺人犯になることだけを望む少年の描かれ方は『KissXXXX』の主人公とも共通する。一瞬で消えるはかない映像のように自身の身体や生を捉える彼らは、けれど突如飛び込んでくる女/少女によって「世界」との接点が作られてしまう。
楠本の描くほとんど病的に繊細な描線、トーンをほとんど使わずただ白と黒が支配する白昼夢のような描写に、あの頃わたしたちはひどく魅了された。薄皮一枚という言葉をそのまま実現したような、ほそい線で切り分けられる人物と背景(その人物も、柳刃のように痩せて佇立する)、それはわたしたちとわたしたちの世界の境がもろく壊れやすいこと、それゆえに厳然としてそこにあることを表す。けれど、「たとえば/たとえば自分の体に触れてみて/そこに自分の体があることを 確認したとしても/それが一体何になるというんだ?」少年が呟く言葉――白黒に二値化され切り分けられても、それがわたしたちの存在意義を担保してくれるわけではないのだ。つなぎ止める何かがなければ、図像はただ白昼夢のように流れるだけだ。
カメラっていう名前は、そう彼女はアイフォーンの鏡面をこちらに向けながら話し始める、「カメラ・オブスキュラ」が縮まったのだよ。ばーいウィキペディア。ラテン語で「暗い部屋」の、暗いがたぶんオブスキュラで、だからカメラには「部屋」の意味しかないんだ。路地をすこし進んでは、新規にタグを登録する、それは虫ピンを壁に刺してゆく作業にも似ていて、わたしは何世紀も昔に発案された単純な装置のことを思い浮かべる。外界の像を、ちいさなピンホールを通して暗室の壁に結ぶ、それは実際彼女の使うアプリケーションとちょうど反対の機械だ。やがて彼女は、わたしはわたしたちの記憶や意識を世界にあふれさせてゆくだろう。わたしという暗室の内側にあった言葉を、ひとつひとつ風景に貼り付けてゆくだろう。「はじめて恋をした場所」「はじめて涙を流せなかった場所」「はじめて、そして最後に別れた場所」。あたらしいアプリケーションで、そうやってわたしたちは世界に自身という図像をつなごうとする。
「カメラ・オブスキュラ」の少年の部屋には、女が買ったポラロイド・カメラによる写真が飾られ、壁じゅうを埋めてゆく。「まるで クズカゴの中にいるみたいだ。」そう少年は呟く。真っ白だった壁、真っ暗だった部屋に、彼女というピンホールを通してやや暴力的に入り込んでくる世界。
『T.V.eye』の後書きで「わかりやすくしてみました」と作者が語るように、「カメラ・オブスキュラ」のラストは単行本で描き足されている。少年が部屋を出ない選択肢を選ばず、カメラを手に持ち、女を追って外へ駆け出すエンド。息切れする少年に彼女は言う、「あら/どっか行くの?」「――途中まで一緒に行く?」。やはり後書きで「これ恋愛モノじゃないんです」と言うように、「カメラ・オブスキュラ」で二人は共同しない、カメラをはさんだ、細い描線に切り分けられた両側にただあるだけだ。(けれどももし本当にわたしたちを「つなぎ止める」何かがあるのだとしたら、それはとても唐突にやってきて去ってしまうような存在のはずだ。ちいさなピンホールを通して一瞬映し出された、走り行くこどもの姿のようなもののはずだ)
「カメラ・オブスキュラ」の掲載から十五年以上、わたしたちの手にするカメラはより小さくなり、デジタル化し、携帯端末と一体化した。進化するにつれて、ウェブログやSNS、その他あらゆるWebサービスの孕むものに、その用途は少しずつ近付いてゆく。カメラのこちら側の、本来の意味でのカメラ=「部屋」をどこかにつなげること、つながるように祈ること。ガジェットがよりスマートに、スタイリッシュになるにつれ、欲望はむしろより露わになっている。繊細な境界なんて、時には簡単に侵犯されてしまうほどに。
九月のはじめ、一年近く会っていなかった、彼女から来た連絡は電話でもメールでもましてや手紙でもなくて、あたらしいWebサービスだった。日記や呟きをアップしたりそれを読んだり、ほんの時折コメントをつけたり、そうやって、わたしたちはそうやって、間接的なコミュニケーションの内に何かを託そうとし続けるのだけど、九月のはじめのメッセージはそこから違和感を覚えるほどにぽつんと浮いて、見知らぬ路に入るようにわたしを戸惑わせる。
七月を境に彼女のブログの更新は途絶えていて、そのいちばん上の日記にはただ一枚、携帯のカメラで撮影したぼやけた月の写真が載る。漆黒の部屋に一つだけあいた穴のような。――実際は、二週に一度しか更新しないわたしの日記も、空や月やそういうものの写真が半分を埋めているのだ。挟むあてのないしおりや付箋ばかりが、手元には溜まってゆく。
少年。少年は、そもそもはじめ部屋から出ないままだった。選択肢も無く、ゲームが終了するだけのエンド。
帰り際、わたしはオールドタイプな(それでもデジタルの)カメラ機能で、アイフォーンをこちらに構える彼女の写真を撮る。ミリ秒までの日時を無機的にタイトルに付けられたそのファイルを、わたしはきっとどこにもアップロードしない。おそらくは目の高さに、バルーン上に浮かんでいるはずのセカイカメラのタグをひとつ掴むように手を伸ばして、わたしは不意に、わたしは彼女のことを好きだったのかもしれない、そう考える。すでにそのことも、視えないバルーンに記述されているのではないか、とも。
「カメラ・オブスキュラ」で、女は部屋を去る際に「記念に一枚だけ」と写真を持ってゆく。ポラロイドの写真を通していくつも穿たれた穴は、つながりは、最後にひとつだけに収束する。そこに何が写されていたのか、どんなタグであったのかは、わたしたちには今も分からない。――08年、ポラロイド・フィルムの生産は終了し、同年セカイカメラの仕様が発表された。ひとつの技術が終わり、新しい技術が同じ名前を伴って登場した。バイ・ウィキペディア。
- 作者: 楠本まき
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1993/09
- メディア: コミック
- クリック: 12回
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1か月も放置してしまいましたが、夏コミは無事終わりました。
次は12/6の文学フリマに参加予定です。
あと、COMIC ZINで3,4号の委託をさせていただくことになりました。
通販はhttp://shop.comiczin.jp/products/list.php?category_id=1432 こちら。
秋葉原店、新宿店にも置いてあると思います。
夏コミ情報まとめ
(当日までトップに置きます)
夏のコミックマーケットに参加します。
8/15(土)東ヨ−14a「close/cross」です。
(2日目なのでご注意ください。FC(少女)ジャンルです)
頒布物
あたらしいもの:
・無料ペーパー(特集:イム・ジュヨン『シエル 〜ラスト・オータム・ストーリー』)id:sayuk:20090807:p1
・三上小又『ゆゆ式』/まんがタイムきらら2009年9月号P17についての本(ゆゆ式本)¥100 id:sayuk:20090809:p1
※ペーパーは当日いらした方に差し上げます。
詳細は↓に。
既刊(本誌)コミケでは初売りです。
・Girls' Comic At Our Best! vol.04(特集:麻生みこと『天然素材でいこう。』他)¥300
・Girls' Comic At Our Best! vol.03(特集:岩本ナオ 他)¥300
本サイト http://www.girlscomic.net/ にも同様のまとめを載せてあります。