ろびこ全作品レビュー(の一部)

文学フリマ用の本に載せる文章の一部)


★『彼女がいなくなった』(KCデザート 2006/9)


☆「彼女がいなくなった」(2006/3 デザートBABY 36p)


☆「カラクリ演劇堂」(2005/9 ザ・デザート 32p)


☆「ラプンツェル」(2005/11 デザート 33p)
 幼なじみのカンタに子供のとき買ってもらった「ラプンツェル」の絵本。絵本の娘と王子みたいな恋をしたい! と思いつつ、微妙な距離のままの2人。ある日、カンタが女の子を連れてくるようになってから、その距離に変化が生じて…。彼女が絵本の魔女だと思いたいけれど、彼女とカンタの邪魔をする自分がまるで魔女のように思えてきて?
 女の子はいつも男の子にとっての「お姫様」か「魔女」かに分けられてしまう、そんな残酷な現実を、少女漫画というオブラートに包みながら誠実に描く作品。変わってゆく気持ちと関係、それに気付かない振りをして自分の気持ちを貫くのか、相手の気持ちを尊重するのか? 答えの出ない問題だけれど、「ラプンツェル」は、その両方の思いを同等に「魔女の気持ち」として掬い上げる。「お姫様」だけを描いてきたかつての少女漫画と違って、いつでも「魔女」になりうるわたしたちのための物語。決して両方に揺れないカンタの意志も、「そんな魔女が好きだっていう王子がいるかもね」という言葉も、そんなわたしたちにとっては救いなのだ。所々の絵本の絵はとってもキュートで、こんな絵も描けるのかと驚きなのだけど、それもあいまってこの作品は少女漫画の表現しづらい部分をスマートに描いた良作だと思う。


☆「はつこいてんとうむし」(2006/5 ザ・デザート 24p)
 なんでも話せる大事な友達だと思っていた彼。今のままで楽しいのに、唐突に「好きだ」と言われて、とっさに「無理」と答えてしまった。それからも友達として付き合いたいと思っていたけど、2人の関係はぎくしゃくし始める。。「なんで変わんなきゃいけないの?」と思いつつも、関係が消えてしまうのは悲しくて…。
 変わってゆく気持ちと変わってゆく関係、という意味では、ある意味「ラプンツェル」と対になる、考えてもいなかったのに「お姫様」になってしまった女の子の物語。お互いに等量・等質だと(友達だと)思っていた感情のバランスが、どこかで揺らいで不安定になる、それは当たり前に起こることなのだけれど、安定を捨てて「あたらしい世界」にすすむ女の子の不安なココロを、「てんとうむしってさ のぼってのぼって てっぺんまでいったら飛んじゃうじゃん アレって飛ぶしかないのかなあ」という台詞に集約させたのは類まれなセンスを感じる(ただ単純に「恋人になる方が幸せ」としてしまう訳ではない、揺らぐ気持ちを切り取ろうとする意識があって)。ろびこ作品の中ではいちばんセンシティブな感覚のある作品。


☆「なりきりごっこ。」(2005/7 デザート 28p)


☆「デメキンイック。」(2005/5 ザ・デザート 32p)



★『ボーイ×ミーツ×ガール』(KCデザート 2007/4)


☆「ボーイ×ミーツ×ガール」(2006/11 デザートBABY 46p)
 中学の時付き合っていた、けれども何をすればいいのか分からないまま別れた2人。2年ぶりに出会った相手はどこか変わっているように思えて、昔の記憶がよみがえってくる。余裕がなかったあの頃、今だったら上手くやれるはずと思う現在。けれども再びのアプローチはやっぱり不器用で空回っていて…。
 初めて読んだ時、あまりの構成の上手さに舌を巻いた作品。再会した2人、かつて付き合っていたときの回想、2人とも外見も感情も変わっていて、今ならあの頃の不器用さやぎこちなさなしに上手くつきあえるはず、成長したはずといったん自信を持つ主人公。過去の記憶と現在の心情が絡みながら、ついに2人は再び接触しようとする、その瞬間気付くのだ、「肝心なことなにひとつ 好きな奴にはいえない」「なにもかもあのころのままだ 自分だけが」。そして再度、今度は女の子の方からモノローグが始まることの感動! 過去/現在と男の子/女の子の複雑な4象限をまるで苦もなく行き来しながらページは進む、ひとつのストーリーを織り上げるために…。時が経って変わってゆくこと(たとえば感情の扱い方とか、性的な変化とか)と、それでも変わらない・進歩しないピュアな感情や行動、そのどちらが欠けても現代でラブストーリィは成り立たないという、乙女ちっく的純愛少女漫画と岡崎京子以降の「リアル」な少女漫画の両方を継承した意識が、はっきりと作品に表れている。モノローグを多用した描き方はろびこ作品の中でもリリカルさが特に極まっていて、作者の特長をもっとも押さえた一作としてまずはじめにオススメしたい作品。


☆「マサムネくんのススメ」(2007/1 ザ・デザート 38p)


☆「にじいろハウス」(2007/3 ザ・デザート 42p)


☆「キラキラの星。」(2006/1 ザ・デザート 34p)
 子供の頃から歌手を目指していたミサト。けれどもオーディションには落ちまくり、ついには「歌なんてもーヤメる」と決心する。街中で出会った占い師のお兄さんには「このまま頑張れば」と占われてしまい、初めは反発するのだけど、何度か彼と話すたびに、いつの間にか狭くなってた視野がだんだんと広がってゆく…。
 「にじいろハウス」と同じく、恋愛よりも生き方を中心に描いた作品。行き詰って傷心の女の子が、ちょっと違った視点に立つ男の子の導きで道を開く、それは確かに少女漫画のお約束なのだけれど、おちゃらけていながら芯にしっかりしたものを持つ男の子のキャラクターのせいか古びた感じはしない。歌を再度歌いはじめて「すごく楽しい!!」と言葉にする主人公の表情の描写は、こちらまでドキドキしてしまうくらい(むしろ男性読者の心を掴むかも?)に圧倒的に輝いている。「にじいろ〜」もそうだけど、ラブストーリィにはまだ発展しない、同じように何かの目標を持って生きてゆく男の子女の子のある種「友情」に近い心の結びつきを描くのも、ろびこは上手い。



★単行本未収録作(2007/11現在)


☆「忘れな草にサヨナラを」(2006/9 ザ・デザート 80p)


☆「先輩の彼女」(2007/5 ザ・デザート 40p)


☆「いちごブレイク」(2007/8 デザート 42p)