文学フリマ新刊(特集:岩本ナオ)詳細の詳細
文学フリマの新刊「Girls' Comic At Our Best! vol.03」(目次はid:sayuk:20081030:p1)について、もう少し詳しい各記事の紹介を載せてみます(もともとは、筑波批評社さんが前回文フリの号の紹介で同じようなことをやっていた(http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20080508/1210237085)のでその真似です)。ついでに今さらですが前号・前々号についても内容を書いてみます。
★特集「岩本ナオ」
『スケルトン〜』が出た時からすごく上手い作家だなあと注目してた岩本ナオ先生なのですが、『天狗』『雨無村』と続くにつれ、単に上手いだけじゃないなんかヘンなものが混じってない?と思うようになり、今回特集にしてみました。
座談会「天狗会議'08」(卯月四郎・高柳紫呉・野上智子・野中モモ・真悠信彦・峰尾俊彦・やごさん・柳田・sayuk)
恒例の座談会、今回は9人もの参加で内容も最長のものになりました。前号の参加メンバーに加え、「少女と少年と大人のための漫画読本」でも岩本先生を強くプッシュされていたTigerlilyland/Lilmagの野中モモさん、そしてコミティアなどにも参加され前々から岩本作品についてたくさん語ってもらった柳田さんに参加していただきました。ひとつひとつのコマの分析から作品に通底する考え方までを読み解く、かなり色々と発見のある内容と思います。やごさんが1冊あたり2〜30くらい付箋を付けていたのが印象的でした。
岩本ナオ(だいたい)全作品レビュー(sayuk)
簡単に全作品(単行本と未収録作品)をレビュー。
レイト乙女ちック・ゴーズ・オン!(sayuk)
突如界隈で、というかsayukとかいう人の中だけで使い始めている用語「レイト乙女ちック」とはなんなのか? 冒頭から「これは評論ではなくアジテーションだ」と言っちゃってるんですが、妄想みたいな宣言を「ちぐはぐ」「いいかげん」「マージナル」の3つの視点から解説。そこからわたしなりの「乙女」観みたいなのもほのみえる内容。
岩本ナオのやさしい世界(高柳紫呉/紫呉屋総本舗)
『スケルトン』の真ん中の3部作略して「雪」「僕」「青」を手がかりにに、岩本作品のキャラクターのかわいさ(男子女子にかぎらず)と世界のやさしさをとらえるエッセイ。「かわいい」も「やさしい」も簡単に言えるし、特に岩本作品への第一印象としてすぐに持つことができるものなのだけど、じゃあそれがほんとうに含むものってなんなのか?って考えるのは難しくて、作品を読み解く重要な鍵になってゆくと思う。
天狗のお面の下はニヤニヤ(柳田/めこ)
『町でうわさの天狗の子』の不思議な世界観は、世界が不思議なだけではなくて、それを当然のようにとらえているキャラクターやさらにその外の描写や構成にある、というのは確か。話が進むにつれさらにだんだん「ズレ」てゆくその世界観をひとつひとつとらえた文章。(しかし「岩本ナオの絵ってだんだん青木雄二っぽくなってくよね」という衝撃的発言をした柳田さんなので(3割くらい納得しかけた)その話を書くかと思ってました)
「友達からはじめ」ること、「友達でいい」こと(sayuk)
岩本ナオの話をするとみせかけて1/3くらい草凪みずほ『NGライフ』の話をしてる。もともとこの文章は「『ゼロ年代の想像力』読んでからめられればいいよねー」とか考えてたんですが、「文フリがゼロ想論ばかりになるとアレだよね」という言葉を聞いて結局ゼの時も出てこない(でもあきらかにはしばしで意識している)内容に。
「ふわふわ」のリアリティ(sayuk)
id:sayuk:20080930:p1。ここで書いてる「はたちの頃書いた小説」というのはフィクションではなくて、いやフィクションなんだけど事実です。持ってるひとは(全国に60人くらいだと思うけど)あれかーとにやにやしてもらえると…。結局10年前と考えてることは変わらないんだなあと思う(わたし自身が)文章。
少女マンガのモデル化に関する試論(高柳紫呉)
少女漫画の描かれ方を「目的志向モデル」と「関係志向モデル」の2つに分け、後者としての岩本作品を論じる。少女漫画として同じラブストーリィを描いていても、その2つは違う方向性を持っているのではないか。関係性の話は前々号・前号でも今号でもあちこちに出てくるけど、それだけ今の少女漫画で重要なタームなのかも。
- 作者: 岩本ナオ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/12/21
- メディア: コミック
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その他:
今号から特集関係とはまた違った文章を載せてみようと思ってこんな構成に。毎号1〜2作品・作家だけだと実際やりたいことに追いつかないなーと思ったので。
衛藤ヒロユキ『魔法陣グルグル』ってほとんど少女漫画じゃない?という対談なのです。(見月みーすけ×sayuk)
mixi『魔法陣グルグル』コミュの管理人である(!)sayukが、もともとグルグルを読むきっかけになった見月氏に依頼して実現した対談。グルグルってどうしてもRPGギャグ漫画として語られることが多くて、そうでない視点があんまりないのにやきもきしてたので、この中ではかなり「そうでない」ことを語ること、また解釈を聞くことができてよかった。正直な所今号でいちばんの自信作です。
- 作者: 衛藤ヒロユキ
- 出版社/メーカー: エニックス
- 発売日: 1993/08
- メディア: 新書
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わたしたちの「黒い羽」問題――ヤマシタトモコ「恋の心に黒い羽」をめぐって(sayuk)
本誌参加の野上さん主宰で「少女漫画読書会」というのを毎月やってたんですが、そこで「恋の〜」を取り上げた時のレジュメをほぼそのまま掲載。この解釈はどうなの?みたいな危うい部分が多々あるけど、「恋の〜」自体がラブストーリィの倫理的に危うい面についてかなり踏み込んでるので、そういう問題意識を(肯定否定どちらでも)読者が作品と本文章から引き出していってくれればなーと思う。
- 作者: ヤマシタトモコ
- 出版社/メーカー: ソフトライン 東京漫画社
- 発売日: 2008/01/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ときに作品のテクニカルな部分にこそ本当の気持ちは宿ったりして/三嶋くるみ『ろりーた絶対王政』について(月読絵空/春になるまで待って)
4コマ批評界の気鋭、月読氏にぜひと依頼して書いてもらった文章。少女漫画はあまり読んでないと言っていたけど、『ろりーた絶対王政』に描かれる女の子と「女の子」のとらえ方問題の特異さ、そしてそれがキャラクターや話作りの展開方法に起因しているという分析、そのことと少女漫画的意識との繋がりの論じ方は十分「少女漫画」的。
ろりーた絶対王政 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
- 作者: 三嶋くるみ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2008/02/27
- メディア: コミック
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『NERVOUS VENUS』(を、今読むこと)について(sayuk)
早稲田ちえの話をしているように見せかけつつ最終的には、80〜90年代の誰もが認める名作・メガヒット作「ではない」少女漫画を「今」どう読んだらいいかみたいな話にスライド。実は今号でもともと予定してて潰れてしまった特集に「相模なつき特集」があるのだけど、半分それを補完している感じ。
- 作者: 早稲田ちえ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/10/09
- メディア: コミック
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と語る○○先生。(sayuk)
少女漫画コミックスの表紙もしくは裏表紙見返しには基本的に「作者のことば」欄があるけど、りぼん・マーガレットコミックスではかなりの割合で(100%ではないのも不思議)「「(コメント)」と語る○○先生。」って書き方がされる。その辺についてのエッセイと言うかなんというか。実質的には「少女漫画の1/4スペースはいつからあるのか?」(id:sayuk:20071027)話とも繋がっている。
Girls' Comic At Our Best! Vol.02
★特集:水城せとな『放課後保健室』
1号出た時点で「次はホーホケ特集やる」と決めてて告知してたんですが、スタートが遅れてしまいかなりギリギリで作ることに。「バナブレからホーホケまで」みたいなアオリはさすがに(自分の文章については)誇大広告だと思いました。しかし参加者の原稿が予想以上に集まってしまったのは嬉しい誤算。
Introduction〜『放課後保健室』の作品世界(sayuk)
基本的な作品紹介。
座談会「ホーホケ放談?」(つきもりりう・野上智子・真悠信彦・峰尾俊彦・やごさん・sayuk)
「座談会を読んだら、割とみんな作品に不満げなのが面白かった」という感想もあったんですが、やっぱりホーホケは「誰もが納得し共感する傑作」というより「誰もが何か考えさせられる問題作」なんですよね。そのへん座談会でうまく表すことができたなーと思います。
『放課後保健室』の構造分析(真悠信彦)
薄井ゆうじ『創世記コケコ』と比較してのホーホケの全体構成についての分析。もともと真悠くんと僕ともう一人友人で「ホーホケいいよねー」って言っていたのがこの特集本の始まりなので(あと、多分自分含めた参加者で一番以前から、一番多く水城作品を読んでるのも彼なので)今回書いてもらえてよかったです。
ゲーム・シミュレーション・メタ少女漫画(卯月四郎)
バトルロイヤルもの・ゲームものとしてのホーホケ分析。ゲーム的な作品というとらえ方をすれば、ホーホケは今の少女漫画の中でもかなり(一面ではあるが)前線にいるんじゃないか。その辺、いろいろ発展的な思考をうながす文章。
彼女達のエクス・デイと放課後保健室(野上智子)
前作『彼女達のエクス・デイ』と比較しつつホーホケを読み解く。「〈傷〉に対してどう振舞うかという問題」が両作品に通底していて、ホーホケではよりそれが洗練されたという指摘は重要。
わたしたちはいつも双子として生まれてくる(sayuk)
「バナナブレッド」「少年は荒野を目指す」「ウテナ」そしてホーホケという流れで書こうかなーと思いつつ、実際は半分自分語りのような。結構いろいろ面白いテーマを出しつつ回収し切れてないなーという(いつものことだけど)感が。
運命に抗う力/資本主義社会の宿命(高柳紫呉)
ホーホケが現実打破の話か運命受容の話か、っていうのは本誌だけでなくあらゆる読者の間でなされていた議論だと思う。社会学的な視点も交えつつ運命論としての、そしてそれを乗り越える形でのホーホケの描かれ方を論じる。
超教育的ロールプレイングゲームとしての『放課後保健室』(峰尾俊彦)
今回の文学フリマの目玉、ゼロアカ道場参加者の峰尾氏ですが、実は前回の文フリにも当誌の原稿で参加してたのでした。美少女ゲームやライトノベルのいわゆる「ループ」「閉鎖空間」ものと比較しつつ、ホーホケにあるそれらの作品との大きな違いを指摘する。「東浩紀はホーホケを今年のSF大賞に推すべき」と峰尾氏は言ってたのだけど、実際は…。
ラブストーリィにおける「距離」の意識/マカロニ(sayuk)
ていうか「/マカロニ」って付けたかっただけだろー!って感じの文ですが、やっぱりラブストーリィ関係性についての内容で、距離感のある恋愛関係を描きはじめた少女漫画、しかしそれだけに回収できないいくつかの作品を取り上げる。
- 作者: 水城せとな
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2004/12/22
- メディア: コミック
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Girls' Comic At Our Best! vol.01
★特集1「石田拓実」
本誌を作るとき一番に決めていた特集。これだけ色々と面白い作家なのになぜ誰も話題にしていないのか!?という思いがあって、じゃあ自分がやろうと思って「少女漫画本」が作られたといってもいいはず。
ラブストーリィ進化論としての『パラパル』論(sayuk)
もともと前述の「少女漫画読書会」のレジュメとして書き起こされたもので、さらにもともとは本サイトのいろいろな文章をかき集めたもの。かなり自分自身の「少女漫画ラブストーリィ論」の集大成になってる。でも多分、「パラパル」の重要な所の半分くらいしか取り上げられてないんじゃないかなーと。
黒川さんについて(野上智子)
「パラパル」の登場人物、黒川さんについてのエッセイ。黒川さんの存在の自由さ、けれどそれが作品が進むにつれて侵されてゆくことの問題、けれどなお輝くそのキャラクターについて鋭い見方を示している。
対談「野獣派でいこう!!」(sayuk×せきね/No Knowledge Product)
対談中でも書かれてるようにもともと石田拓実はせきね君に薦められて読み始めたものだったので、迷わず対談を依頼。内容的には石田論というよりせきね君の人生と少女漫画みたいな話になってしまったけど、もともとの対談タイトルが「石田拓実と僕らの10年」だったので問題なし。「野獣派」界隈はもう一度盛り上がるんじゃないかと思う。
『School Days』と石田拓実作品(sayuk)
id:sayuk:20071025:p1。とりあえず流行りものとからませようかーみたいに安易に書き始めたのだけれど、なんだかんだで同じラブストーリィへの認識を共有していると思う(発露の仕方は違うけれど)。「誠氏ね」で思考停止しないための文章。
確率の残酷さ――石田拓実「金属少女」について(卯月四郎)
短編「金属少女」と岡崎京子『リバーズ・エッジ』について(上のスクイズのでも同じ2つの作品を取り上げてるけどこっちのほうが簡潔でうまくとらえている!)。石田拓実を語る上でやっぱり岡崎京子は外すことができないのは確か。
石田作品の「男女間に友情は成立するの?」(sayuk)
ちょっと不本意な文章。しかし「男女間に友情は成立するのか?」問題を自分は好きだなあ(成立するかどうかじゃなくて、成立するか?と問うこと自体の気味悪さ問題)。
- 作者: 石田拓実
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/09/15
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★特集2「ろびこ」
ちょうどろびこ作品に出会ったのがこの年初めで、そのあと本誌参加者のやごさんと盛り上がってきたのでじゃあ第2特集にするかーと決まった。「少女漫画本」で「創刊号」で、で「石田拓実/ろびこ」って組み合わせが今自分で見てもかなりクール。
ろびこ先生メールインタビュー
インタビューするって決めたのがけっこう後になってで、その辺「他の人が特集に参加する」という後押しがなければ出来なかった。この時期にどこよりも早くインタビューが取れたってのはかなり満足。ろびこ先生も編集部の方も非常に丁寧な返答をいただき、本当に嬉しかったです。
座談会「ろびイスト宣言!」(卯月四郎・真悠信彦・やごさん・sayuk)
その場で読ませて無理やり巻き込んだ人もいた座談会。自分とやごさんはとにかく「これがすごい!」「ここはこの辺りの影響が…」「今後どうなるのか」と興奮していてアツかった。その辺この時だからできた所もある座談会。
ろびこ全作品レビュー(sayuk)
id:sayuk:20071016:p1 に一部。作品紹介とレビューを全作品に。ちょっと褒めすぎでは?みたいなレビューですが、でもできるだけいい所を見つけ出して紹介したいという思いは伝わるはず。このために初めて国会図書館にも行った。
ゼロ年代新「乙女ちっく」と「ろびこ」ムーブメント(sayuk)
「妄想激しすぎ!」「誰も知らない固有名詞出すぎ!」と言われた文章ですが、でも「新しい「乙女ちっく」の波が今世紀になって来ている」ということ、それがどんな特徴を持っているかってのはとりあえず書けたと思う。なんだかんだで評判は良かった。