「ピアニッシシモ」梨屋アリエ(ISBN:4062118602)

ライトノベルマリみてもいいけど最近の児童文学(ヤングアダルト)はどーなのよ、と思って目に付いた新人作家を読んでみました。最初はなんかドラマのナレーションみたいな文体で読みにくかったのだけど(児童文学には最近珍しい三人称だから?)慣れれば気にならず。あらすじをサイトから引用すると、

ひとりっこの吉野松葉が小学生のころ、一人で留守番をするときの寂しさをそっと慰めてくれたのは、隣人の弾くピアノの音だった。 中学三年になったある雨の日、その大好きだった隣家のピアノが、誰かに譲られていった。 松葉はピアノの行方を追い、新しい持ち主・南雲紗英に出会う。同い年ながら、自分とはまったく別の世界にいるような、才能のある自信家の紗英に、松葉は惹かれていく。夢と現実に行き詰まりを感じはじめた松葉は、紗英との強い絆に心の拠り所を求めていくが……。

こんな感じだけど、実際はだんだん百合感が漂ってきます。「松葉は紗英の音楽を食べて生かされているようだった」って吉屋信子か!って感じの言いまわし。しかしそこに紗英を「分かってくれる」「運命の男」の影が! ここまでなら普通の流れなんだけど、話はさらに三転四転五転。サブカル映画監督志望かつたいやき屋さんの萌えキャラも出てきたり。うぐぅ。「私を見てるんじゃなくて理想の私を投影してるだけでしょ」辺りで終わるかと思ったら、最後の1ページまで意外な展開でびっくり。
ヤングアダルトには必須と言える親の描写も面白くて、今までの同ジャンルなら(さすがに昔みたいな絶対的上下関係ではなくても)「大人の経験のない子供」と「子供の経験を忘れた大人」って区別があったんだけど、この作品ではそれも崩れ気味。「もしもヒーローにあこがれる少年がそのまま父親になったのだとしたら、母親は魔法少女の成れの果てかもしれない」とか辛辣な描写もあったりして。
とにかく久々に注目の作家。さすが講談社児童文学新人賞。あと本人サイトもあるみたい。
もう1冊読んだのは魚住直子「象のダンス」(ISBN:4062104466)。この人の前の作品ってもうちょいクールで、例えば大きな傷があってそれを癒すのではなくて、傷自体がその人のフォルムでそれを傷と捉えずに登場人物は生きて行く、でも出会いによってはフォルムが変形することもある、みたいなスタンスだと思っていたのだけど(「非・バランス」とか)、この本は意外にストレートな話だった。