小説「新色」<fragment>(1)

フラグメントになった文章、フラグメントのような物語を書こうと思った。なぜならわたしが得られたのは断片だけだったから、わたしは彼女の連続や、彼女達の連続や、彼女達でないものの連続になりたかったのに、わたしはわたしの連続にしかなれなかったから。彼女や彼女達や彼女達でないものを構成した1分子ならば十分なはずの記憶を記憶できるのに、わたしはわたしの記憶しか記憶できなかったから。わたしの
「身体は熱く火照っていて、今にも溶け出しそうだった、まる」
「身体は熱く……って勝手に文章続けるな! それ以前にひとの文章覗くな!抱きつくな!なぜ怒られたのか解らないという目で見るな!永野護と押井守を間違えるな!」
「今日はハイテンションですなあ」そう東実は言って、偽千鳥足(酔っていると見せかけてその隙になんたらかんたらという歩法。酔っていると教師等に疑われるのが難点)で近付いてくる。「ああ初めまして読者の皆さん。私は東実。読み仮名アケミ。この子は千明」
「東実、カメラあっちあっち」
「……そこは『いきなり第1回からメタノベルかよ!』って突っ込んで欲しかった……」
ノートを閉じると薄緑色の香りがふわっとただよって、そういえば昨日そんな遊びをしたことを再度思い出す。匂いを定着させる遊び。ノートの小口や、鞄の2つ目のポケットや、戸棚の隅や、薬指と小指のあいだに。安物の香水の分子はすぐに拡散したようでいて、今日になっても何度もわたしを苛む。
「とりあえず階級闘争を仕掛けようと思うのだよ」
「……階級?」
「あなた書く人、私踊る人」その場でくるくると回ってみせる。「しかし! このにせものっぽい偽演劇部には階級差別が! ゆえに我々には千明の執筆風景を覗き見たり時には邪魔したりする、……えーとえーと『のぞき権』でいいやっていうかなんでもいいや。ああミクルちょうどいい所にきた実は悲しい話が」
ミクルの今日は正統派ツインテールだ。
「時代は反重力から親重力に移行している、とこないだ言われたのです」そう今朝答えていた。誰に言われたの? 「今日は何の練習ですか? 猫? うさぎ? リス?」
「いいですかミクル君、君は13歳だか14歳ですが君自体は3年前生まれてますが君の名前自体は7年前から生まれているので何だか解らないだろうけど何も引け目を感じることはないのだ。そう昨日の海夜子との『ミクル問題協議会第8分会』で決まった」
名前。
海夜子という名前はわたしが付けた。海や夜や子供とはもちろん海夜子は無関係で、ミヤコという音はひとつも彼女を指していなくて、そういう、彼女や彼女達や彼女達でないものと無関係な言葉を繋げてわたしが付けた。わたしが彼女を認識する名前が海夜子だからこそ、わたしが彼女や彼女達や彼女達でないものを比喩する言葉はどうしても断片で、そういう風にこの断片は続いて重ねられる。
「なるほどです。メモメモ」
「いつも思うんだけど『メモ魔』って萌えポイントなの……?」