「ファウスト」(2)/「ブックthe文藝」

舞城(id:sayuk:20030906#p2)に続き残り2つ、佐藤友哉西尾維新も読了。え、もう1つ小説ある?どこに?
「赤色のモスコミュール」は父性の不確実性コンプレックスの解消に去勢するかしないかの2択しか想定できていないというか、そもそもそんなコンプレックスの存在を想定してないっていうか。スギハラ先輩はヒラセ君を寝取っちゃえばよかったのに(もちろん誘い受で)「りすか」は……そういえば今竹岡葉月の「東方ウィッチクラフト」シリーズ読んでます。魔女の男の子が人間の女の子を使い魔にして、さらにそこにゴスロリ少女に身を扮した魔女の男の子がちょっかい出してくるというステキな魔女っ子もの小説です。


id:sayuk:20030903#p1の続き。1993年3月(僕が中学生だった最後の月)に「ブックthe文藝」が創刊された時にはそういえば震災も地下鉄サリンも数々の少年犯罪も起こってなくって、京極も「雫」もエヴァもソロ小沢健二もWin95も出ていなかった。内容はこんな感じ。

松浦・笙野・多和田の3人が揃っている時点で当時の純文学関係では(ちょうどファウストの3人のように)「衝撃」だったし、今どこ行ってるか分からない久間奥泉両氏も当時はちゃんと新しくて勢いがあった(やはりファウストに比較するなら「思春期対談」あたり?)ラストの新人作家検証も70年代末から90年代初めの作家を網羅的に紹介してて、ちょうど今年のSFマガジンのあの特集を思い出させる。デザインも本誌装丁が戸田ツトムからミルキィ・イソベに変わったばかりで、他のなんか静物画な表紙の文芸誌とは(戸田ツトムからしてそうだったけどまして)一線を画していた。「ファウスト」誌で何度も「新しい」「実験的な」「闘う」と叫ばれるのと同じように、「ブックthe文藝」は93年当時の「闘う文芸誌」だったはず。
じゃあなんで「ブックthe文藝」は1号で終わったのかというと、(僕や僕の周りがヨリちゃんリエちゃんとか言って日々そのあたりの話してたほどには)読者が当時「難解系」とまで言われた笙野・奥泉あたりの作風に付いていってなかったのかもしれないし、作家主導だった当時の純文学の高まりを出版社主導の「J文学」が覆い被してしまったのかもしれないし、「ファウスト」の作家陣のような共通する明確な方向性や目的意識がなかった(「フェミニズム文学」とか「ポストモダン」とか奥泉あたりの「純文学と大衆文学の融合」とかバラバラだった)からかもしれないし、やっぱり文壇に残るロートル作家のせいかもしれないし、渡部直己スガ秀実のせいかもしれないし、震災(中略)Win95がその後数年であったからかもしれないし、今のような読者コミュニティが無かったからかもしれないし、島田・奥泉・久間の対談の冒頭が「小説は完全にマイナーです」なんて言葉から始まるように新人作家の方の意識が低かったからなのかもしれない。もちろん死んだ子の年を数えるのが目的ではないのだけれど、今「ファウスト」の想定する「理想」の読者が10代後半であるように93年にも10代後半という層はあった訳で、僕が中学生最後の月に出た「ブックthe文藝」に衝撃を感じた時に他の無数の「10代後半」は何をしていたのか、というのが「ファウスト」を読んでから無性に知りたいことだったりします。


あとここ最近のオタク業界への現代思想的なものの陥入って、何ていうかかつて北方謙三が「ソープへ行け!」*1って言ってたように、「デリダを読め!」とかって言ってる感じがしてしまう。実際にそれ信じて読んでる人も多くいて、それ自体はいいのだけど、もともとの問題意識に対してその手段により向かう方向がずれてるような気がするのです(ちょうど北方の回答のように。「Papa told me」6巻にあるあの逆上がりの話ともそれは似ていて、「なぜ逆上がりが必要なのか」の答は「逆上がり出来るようになる」では決してない。「ファウスト」の思春期対談(?)452Pで滝本竜彦が「東浩紀さんの分析も的外れだと思う、たぶん。」と(まさにその「分析」の200Pほど後で)述べたのは、ちょうどパパミーで知世ちゃんが感じた違和感と似ていると思う)。もちろんソープ嬢デリダちゃんやラカンちゃんやカントちゃん(ちょっと年増)はそれだけ魅力的で(特に超絶テク「千のプラトー」を持ってるドゥルーズガタリ姉妹(偽)には自分も惹かれてしまいそうになったり)、自分も今まで守ってきたデリダ童貞を捨てるべきか日々悩んでるのですが、例えば舞城王太郎なんかはその辺でかなり「貞淑」でその貞淑さが舞城を作っている気がするんだけどどうでしょうか。(舞城もソープ嬢舞城ちゃんじゃないの?って見方もあるけど、実は舞城=市川実日子で、ところで実日子ファンは「市川実日子っぽいソープ嬢はいない」からファンというあまり暴きたくない真実の露呈。むむそれじゃあダメじゃん)*2

*1:っていうかこれってすでに慣用句だよね。自分も北方謙三のコラムなんて読んだことないし。

*2:この段落変だったので全体的に修正